Case Study

事例紹介

寒河江川土地改良区(山形県)

ゲート、複合堰から圃場まで一体となった遠隔水管理システムの構築
~効率と安全を両立~

  • 用排水
  • 水田
  • その他
  • LPWA

将来性を考えた地域づくりのために
強靭で持続可能な農業を実現する。

農業従事者の高齢化や後継者不足といった地域課題を持つのは寒河江川土地改良地区も例外ではない。将来的な収益の維持向上を見据えて、強靭で持続可能な地域農業を構築するためには、ICT整備による省力化・効率化は重要と考えていた。取組のきっかけは農研機構からスマート農業の実証依頼を受けたことから。地域で前例のない挑戦だったが、水稲の省力化を中心に、排水ゲートの電動化や支水路のスライドゲートの電動化など、通年型のスマート水管理システムの導入を推進している。

寒河江川土地改良区(山形県)

寒河江川土地改良区
国営時面積:3,421 ha
現灌漑面積:約3,150 ha
組合員数 3,889人

【作付上位品目】
米、サクランボ、枝豆・大豆 

  • 左:
    課長補佐
    佐藤 裕斗
  • 右:
    工務担当技師
    奥山 拓己

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 寒河江川土地改良区域では、人口も農家戸数も減少傾向にあり、農業従事者の高齢化や後継者不足が深刻な問題となっており、水田における水管理の省力化も課題となっている。また、令和2年の豪雨では、最上川や流入河川の溢水、越水で多くの農地や住宅が冠水被害を受け、管理する職員の安全性向上も課題となっていた。
  • そこで、実証地域にLPWA基地局を設置して情報通信網を整備し、自動給水栓の整備及び田んぼダムの取組を実施すると共に堰や分水ゲートの管理などを同一システム上で遠隔管理する通年型のスマート水管理システムを構築した。
  • これにより、水管理にかかる労力の大幅な削減とともに、豪雨時の職員の安全性確保を実現した。

整備した情報通信環境

設置機器

  • プライベートLoRa基地局(スマート排水機用)1基
  • プライベートLoRa基地局(自動給水栓用)1基
  • Wi-SUN基地局(自動分水ゲート用) 1基
  • 自動給水栓 11台
    冬期も含む通年の水管理を自動化
  • 自動分水ゲート 5台
    複数圃場の一括給水を自動化
  • 自動排水栓 3台
    田んぼダム機能により豪雨時の水田の配水ピークを削減
  • リモート排水ゲート 1台(LTE一体型)
    豪雨時に開ける排水機場のゲートを遠隔操作
  • 鳥類自動記録システム 3台

~スマート農業実証プロジェクトへの参画がきっかけに~

スマート農業についてはまだ周辺で取り組んだ実績が無く、実証プロジェクトへの参加協力依頼をきっかけに初めて取り組むことになった。実証圃場として(株)奥山農園を選定、土地改良区も連携し、水管理システム全体の最適化を目標に掲げてプロジェクトがスタートした。
令和2年7月の豪雨では、最上川や流入河川の溢水、越水で多くの農地や住宅が冠水被害を受け、土地改良区でも排水機場を管理する職員の安全性向上も課題となった。
計画当初メインであった水田の自動給水栓の話から、排水ゲートの電動化、支水路のスライドゲートの電動化など用排水の最適化を目指すと共に、圃場の落水枡にも自動排水栓を設置し、田んぼダムの取組を行える計画とした。

計画を進める上で重要なことは?

圃場整備は今後20年かかるため、 ICTを推進するためには、地域が将来どんな形を目指し、誰が耕作を請け負っていくのかを考える必要があります。地域に広げていくためには、農地集積・集約化を進め、将来を見越してICT導入に理解を得ていく必要があり、思いだけが先走り、現場が付いてこないことがないような考慮が必要です。

~テーマごとに必要な機器と通信を整備(ボトムアップ型の取り組み)~

コンソーシアムにおいて、水管理・田んぼダム・野鳥管理とテーマごとに役割を分担し、要望を持ち寄りながら進めている。農研機構は基地局の整備、改良区は営農の水管理を担当している。
用水路小型ゲート、自動給水栓、自動排水栓など各々のシステムに最適な通信(LoRa+LTE)を構築し監視制御を行った。機器の電源には太陽光パネルと蓄電池を活用しているが、冬豪雪・夏高温の環境を踏まえ、パネルを垂直に立てるなど機器の設置に工夫をしている。

これまでの経験で学んだことは?

スマート農業技術の性能を十分に発揮させるためには、農地集積・集約化も併せて計画することが非常に重要です。機器の設置後に水位計が倒れるなどのトラブルはありましたが、治具などの工夫で改善しました。また、スマート農業機器導入によるメンテナンス費用は上がっているため、運用の仕方や積立などの対応が必要だと感じています。

~水稲の省力化・排水管理の安全性向上を実現~

開水路用のリモート制御が可能な自動給水栓とクラウド型管理システムの導入により、水管理に要する見回り回数が半減した。スマートフォンやタブレット上でアプリを使用して日々水管理を行っている。
地区内の用排水兼用の水門に無線やアクチュエーターなどを装着し、遠隔での開閉操作を実現したところ、豪雨時に水位データを確認しながら安全に操作できるようになり、操作員の省力化と安全性向上に繋がっている。また、水田に遠隔操作可能なスマート排水ゲートを設置することで、田んぼダム機能と中干し等で必要とされる排水能力を両立させている。田んぼダムは認知度が低いため、農家以外の地域の人たちに向けて広報活動を継続していく。

活用した予算

スマート農業実証プロジェクト「通年対応型のスマート水管理による農村地域の減災・生物多様性保全機能向上の実証」(国費100%)
 令和3年度~令和4年度にて実施

取組み体制

成功要因・工夫した点

  • 実証事業への参加により、農家のコスト負担がない形でICT導入に取り組むことができた。
  • 大規模圃場を選んだため、水管理の効果を実感しやすかった。
  • 駆動用アクチュエーターを装着した排水ゲートと高さの調整がいらない堰板を組み合わせ、複数水田への一括給水を実現した。
  • ソーラーパネルと蓄電池の設置により、電気を引くことなく、電気代高騰の影響を受けずに済んだ。

担当者コメント

スマート農業はメリットが多く、ワークショップなどで地域の特性や課題を見出せば、さらなるメリットを生みだすことができると感じています。(佐藤 裕斗 氏)

スマート農業の導入により、生産技術の全体的な底上げや産業としての活性化につながること、農業収入が向上していくことに期待したいです。(奥山 拓己 氏)