Case Study

事例紹介

大分県宇佐市

国営事業と情報通信環境整備事業の組み合わせにより、持続可能な農業・地域社会の礎を築く

  • 用排水
  • 水田
  • 果樹
  • LPWA
  • Wi-Fi HaLow

老朽化した施設の改修をきっかけに、
ICTで農業分野を越えた地域社会の発展を。

瀬戸内気候区に属し降水量が少ない宇佐市。平野部が多く山の保水量も少ないため、昔から水に関する苦労は絶えなかった。近年では約40〜50年前に整備された多数の農業水利施設が次第に老朽化。農業用水の安定供給に支障をきたし、施設の維持管理の負担が増えるなど問題を抱えていた。そこで、施設の改修に加えてさらなる効率化を図るため、次世代型農業水利システムの構築やスマート農業推進のための情報インフラ整備を計画した。また、その汎用性を生かし農業分野だけの利用に留まらず、広く市民サービスの向上に寄与していく自治体DXや地域DXの推進も視野に入れて計画を進めている。

大分県宇佐市

総面積:  43,905ha
耕地面積:7,880 ha
 田: 6,800ha
 畑:    1,080ha
総人口: 52,771人
総農家数:788戸
【作付上位品目】
米、麦、
大豆、いちご、ぶどう、お茶

  • 宇佐市 経済部農政課
    国営事業営農対策係 総括
    石川 晋
  • 宇佐市 経済部耕地課
    国営事業推進係 総括
    栗林 宏明

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 宇佐市は従来から降水量が少ないうえ土壌の保水力も低く渇水に悩まされてきた。このため、昭和40年代より国営駅館川(やっかんがわ)農業水利事業によってダムや用水路等の農業水利施設が多数造成されたが、近年では老朽化により農業用水の安定供給に支障を来し、施設の維持管理等に多大な費用と労力を要するようになっていた。
  • 施設更新に向け令和元年度より国営土地改良事業地区調査「駅館川地区」に取り組む中、次世代型水管理システムの有用性に着目し、先進自治体の視察など調査・検討を進めるうち、農業分野にとどまらず地域全体を視野に入れた情報通信環境整備の重要性を感じるに至った。
  • そういった中、九州農政局から準備会の紹介があり、サポート体制や研修会等に魅力を感じ、令和4年度に準備会に参加して情報収集を始め、個別地区支援を受けた上で、令和5年度からは計画策定支援事業に取り組み、市内の情報通信網の現状調査やワークショップの開催など、国営事業と同時並行で整備計画の策定を行っている。

情報通信環境整備の全体計画

設置想定機器

  • 頭首工等の水位の遠隔モニタリング
  • 排水機場等の自動制御や遠隔制御
  • 用水の流量計測
  • 防災を目的とした河川の水位計
  • 農業者や市民が使うセンサー等のICT機器など
  • 情報通信基地局

個別地区支援
~個別地区支援により情報通信環境整備のポイントをつかむ~

情報通信インフラを整備した経験はなく、初めて聞く単語ばかりで難しさも感じていたが、令和4年度に入会した準備会では、研修会等に参加し、1から10まで質問を重ねながら知見を広めた。
個別地区支援では、サポート企業と地区の現地確認を行い、現状と課題を整理した。サポート企業が目線を合わせて説明してくれたため、情報通信技術に関する理解を深めることができた。

役所内では、総合政策課と調整を重ね、情報通信の整備計画は、市の「情報化推進委員会」の下で検討し決定すべき事項として位置づけることで、農業分野に限定することなく、市の情報化という枠組みの中で分野横断的に検討推進できる体制を整えて計画策定支援事業へと進むことになった。

計画策定支援事業 ~分野横断型の体制構築により情報通信環境整備・地域DXを推進~

令和5年度から計画策定支援事業を開始し、農業者、市民、職員とワークショップを行い、課題の整理や導入ニーズの把握を行った。また、市内の情報通信環境の現状や民間の電波の通信範囲、通信不感地域を調査し、通信方式やネットワークの検討、試行調査の構成案の検討などを行った。
令和6年度は試行調査を実施し、施設の仕様や配置計画、整備・運用方式、概算事業費の算定等、事業実施計画を作成している。用途やコストに応じて通信技術を選択し、財源を組み合わせながら整備を段階的に進めていくために、情報通信インフラの全体像を示す整備計画を作成していく。

計画を進める上で重要なことは?

・ ICT化やDXの推進により、リソースの最適化を目指し、持続可能な「地域づくり」「行政サービス」を目指す。
・ 情報インフラの整備やDX推進にあたっては、関連する補助事業を活用し財源を確保するとともに、DX人材の育成とノウハウの蓄積は不可欠。
・ 情報通信環境整備は、農政課だけの手段と捉えず、自治体DXや地域DXと並行して進めている。多部署・複数用途で整備した情報インフラを活用し、ランニングコストの負担感を低減する。

【今後の整備計画】

令和6年度
1.試行調査の実施及び取り纏め
  (LPWA・Wi-Fi HaLow™)
2.施設の仕様及び配置計画の検討
3.整備、運用方式の検討
4.概算事業費算定
5.関係機関等との協議
  (国・県・土地改良区等)
6.事業実施計画図の策定

令和7年度・8年度 
国営事業の推進に合わせて、情報通信設備も段階的に整備予定

【地区計画の全体像】

国営事業で整備する施設に合わせて遠隔・自動で水管理を行う次世代型システムの構築を目指している。それにより水資源の効率的な活用と、管理作業の省力化・効率化を図るとともに、情報通信インフラを活用したスマート農業への展開も検討している。
農業分野だけでなく広く市民サービスの向上に繋げるため、整備後のランニングコストまでを視野に入れ、多段的な情報通信環境整備計画の策定を目指している。

これまでの経験で学んだことは?

  • LPWAやWi-Fi HaLow™、地域BWAなどの情報通信技術は、それぞれ得意不得意があることがわかった。実施時期や用途・環境に応じて選択できるように計画することが重要である。
  • 情報通信は汎用性の高さが強みである。情報通信インフラを使って何をしていくか、農業分野に限定せず、自治体DX・地域DXと並行して考えていくことが重要である。

担当者コメント

本事業で実施したワークショップや現在自治体に策定を求められている「地域計画」の協議の場で吸い上げた地域課題を整理し、課題解決のために「情報インフラの整備」「土地改良事業」「スマート農業」「自治体DX」「地域DX」を組合せ、「地域が選択できる」状況を作り出したい。(石川 晋 氏)

老朽化による漏水や、水資源の配分など、農業用水に関する課題解消に対し、情報通信環境整備やICT化は有効な手段と考える。(栗林 宏明 氏)