Case Study

事例紹介

新潟県中魚沼郡津南町

将来の担い手につなぐ、持続的な農業を目指して
~豪雪地の通信インフラ整備~

  • 施設園芸
  • 河川・ため池
  • 水田
  • 鳥獣害
  • LPWA

いずれ直面する課題に向けた対策で
基幹産業として成長し続ける農業を。

魚沼コシヒカリやオリエンタルユリといった名産品をはじめ、野菜や畜産などバランスの取れた農業構造をもつ津南町。「農業が元気なまち」を目指した政策を進めるなか、近年、農業者の代替わりが進んだため、若い農業者でも営農しやすい体制の構築が必要となってきた。そこで令和2年からスマート農業実証プロジェクトを推進。農業の省力化・高度化による担い手づくりや品質の維持・向上など、将来を見据えた対策を進めている。

新潟県中魚沼郡津南町

総面積 17,021 ha
耕地面積  3,020 ha
 田 1,920 ha
 畑 1,100 ha
総人口      8,989 人
総農家数 1,228 戸

【作付上位品目】
米、スイートコーン、アスパラガス、にんじん

  • 左:
    津南町長
    桑原 悠
  • 右:
    津南町 農林振興課長
    太田 昌

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 津南町の基幹産業は農業であり、人口減少や生産者の高齢化を踏まえ、新たな担い手づくりの推進や特産品であるユリ栽培の熟練技術の伝承、水田・水管理の負荷軽減、鳥獣害への対策が求められていた。
  • そこで、LPWAの基地局を廃校の屋上に設置し、ユリハウスや水田、鳥獣被害が含まれる地域における通信環境を試験的に整備した。
  • これにより、ユリ栽培ハウスの環境センシングや罠センサーによる鳥獣害対策の実証をスタートし、得られた成果を踏まえ、更なる活用を進めている。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LoRaWAN® 基地局 2基
  • 水田センサー 8台、自動給水装置 2台
    水田水管理
  • ハウス環境センサー 2台
    ユリハウス環境モニタリング
  • 罠センサー 4台、生体監視カメラ 8台
    鳥獣外捕獲監視
  • 静止画カメラ 1台
    ため池監視
  • 水位センサー 1台
    ため池の遠隔監視

~ワークショップを活用し、計画段階から生産者の意見を引き出す~

令和2年度から2カ年にわたり新潟県と共に農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」に取り組み、新潟県や津南町農林振興課、津南町農業協同組合や関係企業で官民連携のコンソーシアムを立ち上げた。豪雪地域の露地野菜産地におけるスマート農業導入による省力化、生産性向上の実証を行い、労働時間の削減や作業の軽労化といった効果が出ていることから、スマート農業技術を展開していく方針としている。
令和3年度より農山漁村振興交付金を活用し、設定したモデル地区において、ワークショップやICT機器の実演会、ニーズ調査、電波調査を実施している。令和4年度にはそれに続く試行調査を実施し、検証結果を踏まえ情報通信環境整備計画を作成することとなっている。

計画を進める上で重要なことは?

JAやICT利活用に積極的な生産者など、キーマンとなる方々にワークショップにご参加いただき、スマート農業の事例を紹介し、地域の実情を踏まえた活用の方向性について意見交換を重ね、計画段階からスキームに加わっていただきました。小さな自治体のため、新潟県に依頼して農業の専門職員を派遣していただき、農業政策の中核の一部を担っていただきました。

~町内の廃校を利用し基地局を設置~

水田やユリ栽培ハウスがあり、鳥獣被害がある地域で、高齢者も多く、子供の登下校管理にも活用できそうな地域を選定し、LPWAの基地局を廃校の屋上に設置することとなった。4~5km圏の通信が確認され、数か所の追加で町全体が網羅される見込みとなっている。公共施設を活用した基地局の設置は、メンテナンスが容易であることが大きなメリットである。

整備を進める上で重要なことは?

豪雪地帯のため、季節変動の影響をどの程度受けるか、電波調査が必要でした。草が生い茂る春の環境の良い時期と冬の豪雪で特に環境が悪くなる時期の2回にわたり電波調査を実施し、選定エリアでの電波測定と比較を行い、通年安定稼働させるための情報通信整備設計を行う必要がありました。

~データ活用による熟練技術の伝承と将来の担い手育成へ~

ユリ栽培ハウスに環境モニターを設置し、スマートフォンなどで常時ログを監視することが可能となった。世界一のユリを作っているという農家の方々の品質への意識は非常に高く、ハウス内の環境データをユリの生育・品質向上に繋げていきたいと農家の方から意見をいただいており、今後データの蓄積・分析活用により、担い手の育成や、熟練技術の伝承に繋げていきたい。
ため池の遠方監視や水田の自動給水栓などの試行調査を進めていく。農業だけでなく、地域活性化や見守り、子育て支援や防災など幅広い活用を考えており、情報通信環境整備による地域の魅力向上を図っていきたい。

活用した予算

令和3年度より農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)を活用し、試行調査や計画策定を行っている。
 (令和3年度 3,000千円 令和4年度 37,000千円)
令和2年度からの取組は農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」に採択された新潟県の予算を活用している。
町独自では「スマート農業加速化補助金」「農業用ドローン操作免許取得費補助」等の補助事業を展開している。

取組み体制

成功要因・工夫した点

  • JAや地域の生産者が計画段階からスキームに入っていたため、地域課題が把握できたこと。魚沼産こしひかりやユリといった高品質の特産品を生産する農家の品質向上の意識が高い。
  • 町の基幹産業である農業の活性化と将来の担い手育成への町長の熱意がスマート農業の推進力となっている。
  • 県から農業の専門の方を役場に派遣していただき、農業政策策定の軸を担って頂いた。また、民間の通信事業者が相談に乗り、常に協力してくれることも大きい。

担当者コメント

魚沼産コシヒカリやユリに代表される基幹産業である、農業の持続的な成長と担い手の育成は最重要課題です。将来を見据え、通信環境整備による省力化・効率化を図り、栽培技術の伝承・高度化を進めたいと考えています。(桑原 悠 氏)

官民連携の情報通信環境整備をきっかけに地域全体の魅力を高め、新しい農業者の参入や新たなビジネスの参入、移住定住につなげていきたいです。(太田 昌 氏)