Case Study
事例紹介
鹿児島県志布志市有明町野神地区
民間主導のスマート農業実装に向けたローカル5Gの整備運用
- 自動機
- 施設
- 鳥獣害
- その他
- LPWA
- ローカル5G
少子高齢化に対応した農業の自動化。
安全かつ効率的な作業で生産性の向上も。
志布志市の主な産業は農業や海運。なかでもお茶は主要産業のひとつとされるが、人口減少や高齢化による担い手不足が課題となっていた。そこで、省人化や負担の軽減、そして生産性の向上を目指したICT整備を実施。具体的には従来3人で分担していた摘取り、運搬、蒸し作業を夫婦の2人でも行えるよう、摘取り作業の自動化を図った。自動運転に関しては、監視カメラシステムと遠隔操作アプリを少ない遅延時間で活用できる環境を整備することで、より安全な運転の実現に取り組んでいる。
鹿児島県志布志市有明町野神地区
総面積 29,028 ha
耕地面積 6,470 ha
田 1,430 ha
畑 5,040 ha
総人口 29,329 人
総農家数 1733戸
【作付上位品目】
米、野菜・果実
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鹿児島大学
末吉 武志 氏
取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)
- この地域では、人口減少や高齢化、近年の気候変動の影響により、農業の担い手減少への対応や作業負担の軽減、安全性の向上が課題となっており、お茶の生産性向上と省人化・負担軽減を目指し、摘取り作業に関する農機の遠隔制御や高速画像転送及び画像解析技術の社会実装に向けた取組を行うこととなった。
- 主な取り組みとして、ローカル5GとLPWAの整備に当たり、ローカル5Gでは共同利用型プラットフォームの仕様策定を含む事業モデルの検討を行い、他者の光ファイバに一束化し、施設に相乗りする形で整備を進めた。
- ローカル5Gは地域サーバーとインターネットの組み合わせにより安価で高い通信品質が保証され、遠隔監視システムによる自動運転が可能となり、複数(2台)の自動運転作業により労働時間の削減が確認された。
整備した情報通信環境
設置機器
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■ローカル5G基地局2基
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■LoRaカメラ 3台
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■LPWA 画像送信子機
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■ローカル5G遠隔監視対応ロボット摘採機 2台
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■鳥獣対策用監視AI装置 3台
等
~レベル3へのステップアップに向けて~
お茶に関する研究を進める県・鹿児島大学・民間のコンソーシアムが平成25年に設立され、本事業の計画を進めている。「令和元年度スマート農業加速化実証事業」において、自動走行のレベルをレベル2からレベル3(※1)にステップアップするために高速通信インフラが必要となり、本事業に取り組むことになった。
直線距離で2.4km離れている圃場と監視室を6kmの光ファイバで繋ぎ、圃場に移動式のローカル5Gの基地局を設置した。LPWAで集めた圃場データをエッジサーバー(※2)で集約精査し、ローカル5G経由でクラウドに転送し摘採計画の策定支援や遠隔操作し、ロボット摘採機に搭載した監視用車載カメラから周辺画像を遠隔室に送信し、安全確認を行う実証実験を行っている。
※1:レベル2 (ほ場内やほ場周辺からの監視下での無人状態での自動走行)
レベル3 (遠隔監視下での無人状態での自動走行)
※2:エッジサーバー(ネットワークの負荷軽減や処理速度向上を目的に、エッジ(端末側)に設置されたサーバーのことで、ネットワークへの中継やデバイスとクラウドの間で処理を行う)
計画を進める上で重要なことは?
ローカル5Gのイニシャルコストが8千万円近くかかるため、基地局を移動式にして光ファイバが整備された複数の圃場で利用できる形にしたり、既存インフラへの相乗り等でイニシャルコストを抑えたり、整備後の一般利用者の拡大予測なども含め、コスト計算は重要です。
~LPWAと可動式ローカル5Gを組み合わせた整備~
短期間に6kmの光ファイバを整備する必要があり、志布志市に相談し、電力会社の協力を得て市が保有する光ファイバに一束化して共同利用する形にさせてもらい、コスト削減にも繋がった。
ローカル5G光回線の機器は28GHzと4.9GHzを敷設したが、4.9GHzのカバー範囲とスピードが当初予定通り上がらず、チューニングを続けた。
今後の発展を考え、ローカル5Gのみでカバーできない不感地帯をLPWAで補う仕組みを検討した。
これまでの経験で学んだことは?
過疎地における光ファイバの整備には、地形的な問題のほか、共架すべき電柱の有無や、センター設備からの距離の長さ、採算性などの課題があります。さらに、水道管や側溝、線路など、電柱や既存施設だけでなく、様々なインフラをシェアリングし、自治体やインフラ事業者と協働して低コストで整備していくことが求められます。光ファイバが切れた場合、迅速な対応が求められるので、地域に修繕技術を伝えることも重要だと学びました。
~実運用に向けた制御機能の検査~
自動運転に関しては、遠隔操作アプリ(摘採機停止機能)と監視カメラシステムをローカル5Gと組み合わせ、摘採機の停止指示送信から停止までの走行距離を1m以下にする試験を行っている。
高速通信インフラの整備や利用料の低廉化、摘採作業以外の作業や圃場間移動自動化、圃場監視、圃場間移動無人化のための法整備などが今後の検討課題として挙げられる。
作業の更なる効率化を目的に、複数農機(摘採機・中刈機)の遠隔制御を1人で行う多重制御試験を実施していく。
既存インフラ保有者の施設共用、垣根を超えた利用者間での共同構築、共同利用を促進する施策、初期投資に対する国や自治体の柔軟な支援が社会実装の課題解決につながると考えている。
活用した予算
農水省令和2年度スマート農業実証プロジェクト
総務省 地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証(連携型)
志布志市 通信設備維持管理事業
総務省事業 2.5億円
農林水産省事業 1.2億円(令和2年度)
0.9億円(令和3年度)
取組み体制
成功要因・工夫した点
- 九州電力と志布志市が既存の光回線のインフラとの一束化に協力してくれたことで、短期間での整備とコスト削減が可能になった。
- 自動化農機(レベル3相当)に対する現場の期待は高く、積極的な事業参加をいただいた。加えてドローンなどの計測データが大量に発生するが、これを圃場から短時間で送れる機能は評価いただいた。
- 鳥獣対策や圃場監視などローカル5Gで活用するコンテンツを自動化農機以外でも多数そろえたことがよかった。
担当者コメント
ローカル5G遠隔監視システムにより自動運転が可能となり、労働時間の削減、省人化が確認されました。インフラである5Gやそのバックボーンである光回線を、誰がどのような予算で構築・維持していくかという課題はまだあります。