Case Study

事例紹介

静岡県袋井市

デジタルでつなぐ『農』のあるまちづくり
~水管理の現場の課題をIoTで解決する~

  • 用排水
  • 河川・ため池
  • 水田
  • その他
  • LPWA
  • BWA

より安全で確実な水管理を求めて。
蓄積データの活用で未来予測も。

平野部や河川が多い袋井市は、台風などによる浸水被害に繰り返し悩まされてきた。被害が予想されるたびに市の職員が排水機場に駆けつけていたのが従来の対応。この現状を踏まえて、より安全で確実な操作が求められていたこと、そして未来を見据えた対策としてデータの蓄積が重要とされたことから、国の実証事業で効果を実感していた水位センサーや監視カメラによる管理システムの導入を本格的に開始した。

静岡県袋井市

総面積: 10,833 ha
耕地面積:3,170 ha
 田: 2,260 ha
 畑:  908 ha
総人口:87,864 人
総農家数:1,086戸

【作付上位品目】 
メロン、茶、大豆

  • 左:
    袋井市 企画部 ICT政策課
    主幹 兼 DX推進室長
    大石 隆之
  • 右:
    袋井市 産業部 農政課
    主幹兼農地整備係統括係長
    足立 直紀

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 袋井市の南部では水稲が多く、水田水管理の省力化、効率化のニーズが高い。さらに台風などの浸水被害に対し、排水機場等、農業水利施設の管理を遠隔で安全に行う必要性が高まっていた。
  • これらの複数の課題を効果的に解決するため、市庁舎屋上などにLPWA、BWA基地局を合計9か所に設置、市内の幅広いエリアをカバーする無線通信網を整備した。
  • 営農者の水田における水管理の時間コストは70%削減に成功。市農政課では排水機場や各種水利施設の水位データ、カメラ画像、ポンプ運転信号などを取得し、実際に令和4年の台風15号の際に活用した。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LoRaWAN ® 基地局 6箇所
  • BWA基地局  2箇所
  • ZETA基地局 1箇所
  • 水田センサー、自動給水栓 計400台
    水位監視・自動水管理
  • 水位センサー 30台
    排水機場、用水路、河川の水位観測
  • 信号取得センサー 5台
    排水機場ポンプ運転状況の観測
  • 静止画カメラ
    排水機場監視、河口閉塞監視
  • 冠水検知センサー 10台
    危険水位になった際のアラート通知
  • 着座センサー 22台
    庁舎内空席状況の可視化

~計画ありきではなく、常に地域の課題解決から~

令和元年度からの5年間は「第3次袋井市ICT推進計画・官民データ活用推進計画」を基に「ICTを活用するための環境整備の促進」を行っているが、大前提として「地域の課題をICTを活用してどのように解決するか」という意識で常に議論を行っている。
国の情報通信基盤整備実証調査業務(革新的技術開発・緊急展開事業(経営体強化プロジェクト))において排水機場における監視の省力化や運転管理の適正化を図る実証が終わり、運用に移行するにあって課題や改善点を議論し、農政課とICT政策課で情報共有を行ったところから実証実験に取り組む流れになった。「こうなったら安全、便利に使える」とアイディアを各部門の担当者が気軽にICT政策課(ICT推進本部事務局)に相談することで、様々な施策がスピード感を持って進んでいる。

計画を進める上で重要なことは?

新しいことを始める時に足並みを揃えるのは難しいことです。だからこそ、「熱意」と「情熱」を持って自分から一歩踏み出し、その背中を周りに見せることを大切にしています。一人で全部やるわけではないですが、まずは自分が一歩踏み出して姿勢を見せることで、周りも大変協力的になってくれました。

~計画段階から工事業者に相談し整備をスムーズに実現~

なるべく地元の工事業者がスムーズに施工できるよう、市役所のルールに基づき、発注段階から管理全体までを工事業者と一緒に考えていく仕組みにしている。
令和4年の台風15号で大きな被害を受け、排水機場に関連する排水路や河川の水位上昇を把握する必要性からセンサーを見直し、用途や機種選定から工事業者に議論に入ってもらい、センサー等機器の手配から設置作業までの見積を作成してもらい、スピード感をもって進める工夫をしている。

これまでの経験で学んだことは?

技術の導入を先走ってしまったことで、実際に導入したものの、その後の活用拡大につながらなかった経験をしました。最低限、技術を使って何ができるかを知識として知っておく必要がありますが、それだけではなく、現場に落とし込んだ際にどう使っていくのか、現場が抱えている課題の解決にマッチしているのかを、常に把握する必要があると学びました。

~デジタル化による省力化・効率化を実感!更なる活用へ~

自動給水栓と水田センサー(水位・水温計測)を導入した農家がスマートフォンやタブレット上でアプリを使用して日々水管理を行っている。これまで車で水田を回り、入水の開閉を手作業で行っていたが、遠隔操作が可能となった。水位に基づいた自動水管理が可能となることで、これまで水管理にかかっていた時間の7割の削減を実現した。
排水機場などでは近年局地的な短時間豪雨が増え、急激な水位上昇をセンサーによりリアルタイムかつ正確に捉え、ポンプの運転を適切にコントロールする場面が増えており、今後全ての排水機場に水位センサーを取り付け、適切な運転管理により、流域の治水対策に寄与する。

活用した予算

平成29年度 農水省「経営体強化プロジェクト」でのスマート農業実証への参画。令和2年度「天竜川地区情報通信基盤整備実証調査業務」を通じて基地局やセンサー類の整備も実施。
市では第3次袋井市ICT推進計画・官民データ活用推進計画に基づき「スマート農業普及加速化支援」に向けた予算や、「治水対策」予算を組んでいる。

取組み体制

成功要因・工夫した点

  • ICT政策課がDXや情報システムの実証実験など最新動向を把握しているため、各部署の悩み事に対し適確な技術支援ができている。
  • 計画ありきではなくその時々の困りごとに対して実証を行ったり修繕を行ったり臨機応変に対応することができるよう予算を組んでいる。

担当者コメント

今後は、水位データの見える化を進めるだけでなく、気象情報等のデータを組み合わせることにより、水量の未来予測に基づく、安定した営農の推進につなげていきたいです。(大石 隆之 氏)

台風被害を経験し、流域治水の重要性を認識しました。他部門とも連携しながら、田んぼダムやさらなるデータ活用を進めて、流域治水に取り組んでいきたいです。(足立 直紀 氏)