Case Study

事例紹介

北海道美唄市

いのちを育む力強い農業が営まれ、安全・安心な農産物を作るとともに、多様な機能を有する活力ある農業・農村づくり

  • 用排水
  • 水田
  • その他
  • LPWA

農家の減少と高齢化で増す負担を
管理作業の省力化で解決する。

年々進む農家戸数の減少や担い手の高齢化によって、用排水路や排水機場の管理にかかる負担が問題となっていた美唄市。豪雨や雪国ならではの融雪時に必要となる現地確認では、夜間での作業ともなると危険性が増すため、管理方法の改善が急務だった。同時に、一戸あたりの経営面積の拡大に伴う作業負担の増加も課題だったため、安全性の向上と省力化を目的に、管理システムの導入を決定した。

北海道美唄市

総面積:  27,769 ha
耕地面積:9,410 ha
 田:8,720 ha
 畑:   686 ha
総人口:20,413 人
総農家数:560戸

【作付上位品目】
米、小麦、大豆

  • 左:
    経済部農政課
    農務係長
    大津 聡也
  • 右:
    農業者
    伊藤 俊英

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 美唄市では生産者の高齢化や農家戸数の減少により、用排水路や排水機場の施設の維持管理の負担軽減や1戸当たりの経営面積拡大による効率化が課題となっていた。また、豪雨や融雪時の現地確認では、夜間と豪雨が重なると危険な作業となり、管理の省力化・高度化が急務となっていた。
  • そこで、展望台屋上と排水機場4箇所に基地局を設置し、市内広域にLPWAによる情報通信網を整備した。
  • 水位センサーや監視カメラの整備により排水路から農地への越水などを未然に防ぎ、農業被害を防ぐことを狙っている。農地集積・美唄型輪作体系の普及・生産性の向上に対し、水位センサーや自動給水栓などのICTを活用したスマート農業技術は、農家の負担を軽減し、経営安定や体質強化につながるものと考えている。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LoRaWAN®基地局 5基
  • 水田センサー 4台
     水位の監視
  • 自動給水栓 10台
     給水栓の自動化
  • 静止画カメラ 11台
     水位のリアルタイム可視化
  • 温湿度センサー3台
    温度と湿度のリアルタイム可視化

~行政主体ではなく、常に地域の声を聞くことから~

農政課が主体となり、美唄市ICT農業推進協議会を令和元年に設置し、関係機関とスマート農業導入に関して研究や検証を重ねている。水田水管理システムの導入は協議会と協業で進めている。地域農業者との情報共有から課題を把握し、解決に向けてICT導入を進めていくことを大事にしている。
令和7年まで美唄市農業ビジョン(第3次)でスマート農業技術の検証や普及の計画を立てている。
スマート農業促進の令和7年までの目標として、遠隔監視を行う排水路の設置数を12カ所、自動給水栓が導入された農地面積数を10haと具体的に計画している。

計画を進める上で重要なことは?

土地利用型の農家が多いため、作業負担を減らす効果の高い農業機械の導入の方が関心は高いです。気温や水温など、具体的な数値を見せることで納得する農家も多いですが、水稲の水管理に関しては、長年の経験を大事にしている農家も多くありました。実証開始時は半信半疑の農家も多かったです。実証に参加していただく農家の選定には、飛び地の水田を所有し、通い作の負担軽減を望んでいる方など、導入効果や地域への波及効果の検討が重要です。

~地形や気象条件、営農の実態に合わせた整備の進め方~

市内全域をLPWAでカバーするため、標高200mの展望台屋上と排水機場4か所に基地局を設置し、市内広域をカバーする通信環境を整備した。展望台の基地局だけで10㎞近くカバーが出来た。
積雪対策として、基地局や機器の設置を2m以上地面より高くするよう設計段階で検討を行った。
輪作をしている農家が多いため、必要なシーズンだけ設置して利用できるような可動式や、既設の給水弁に後付けできる機器の要望をメーカーに伝えている。

これまでの経験で学んだことは?

通い作や営農面積の増加により、スマート農業に対するニーズは増えることが予想されますが、水管理システムの費用負担については営農規模や輪作等の経営方針、効率化への期待感により、判断が異なることがわかりました。また、実証の結果を踏まえて、目で見てわかる形で地域に伝えていくことが重要です。排水機場の管理については、農家の方を雇用して管理しているため、地域の方との相互理解、情報交換の重要性を感じています。

~実運用による導入効果を地域に伝え、普及を広げていく~

自動給水栓と水田センサー(水位・水温計測)を導入した農家が、スマートフォンやタブレット上のアプリを使用して水管理を行っている。これまでは田植から1カ月半の期間、水管理のために毎日水田に通っていた農家が、機器の導入により3日に1回の見回りに省力化できている。飛び地の水田を保有している農家は、移動時間と見回り作業で毎日2時間かかっていた時間が省略できた。
排水機場全てに遠隔監視システムを導入し、豪雨時の排水路監視や排水機場の運転に関しリスク軽減の効果が見られた。
先行事例として、温度センサーとハウスのビニール自動巻き上げ機の連動やタイマーでの水やりの自動化、冬期サツマイモ貯蔵の温度センサーと暖房機の連動を自作、活用している農家もいる。

活用した予算

農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)計画策定事業を利用し、基地局、センサーなど試行調査を実施。(2か年26,600千円)
その他、美唄スマート農業推進事業、農業用水路整備事業、排水機場整備事業などの予算を活用。
令和2年より美唄市スマート農業機械導入補助金として、農家に対し1経営体あたり上限50万円、対象経費の1/2以内の補助を出している。 (R4予算額19,000千円)
美唄市農業振興基金を活用しスマート農業技術を扱う人材育成や技術の導入に向けた検証事業を支援している。

取組み体制

成功要因・工夫した点

  • 地域課題(高齢化、経営面積の拡大、通い作の増加等)の解決に向けて、着実に実証できること・効果が認められることを選択している。
  • 飛び地の水田を保有しているなど負荷が高く導入効果の出やすい農家に実証参加を依頼している。
  • 地域の農家と農政課が現場を訪れ、対話を重ねることで好循環が生まれている。
  • 機器類の購入には、農家の負担を減らすよう令和2年度より補助金を創設し、工夫している。

担当者コメント

豪雨時の排水路監視や排水機場の運転に関して、リスク軽減効果が見られました。水位センサーと自動給水栓による省力化(特に飛び地の耕作地や通い作農家)に一定の成果もあったので、さらに普及啓発活動を進めていきたいです。(大津 聡也 氏)

遠隔で飛び地のバルブ制御ができるようになり、効率が改善し、体も楽になりました。今まで勘に頼っていましたが、水位をデータで確認できるため、水管理の迷いがなくなりました。(伊藤 俊英 氏)