Case Study

事例紹介

北海道壮瞥町(そうべつちょう)

多彩な農業の多岐にわたる課題を解決
~中山間地域のDX推進~

  • 用排水
  • 河川・ため池
  • 水田
  • 施設園芸
  • 鳥獣害
  • その他
  • LPWA

農業の担い手不足から広がる課題。
目指すのは低コストでの一斉解決。

壮瞥町が抱える大きな問題、それは加速する農業の担い手の減少。この問題によって農家が管理する圃場や水利施設は広域化し、見回りにかかる負担の増加は、しだいに鳥獣被害の拡大につながっていった。波及する様々な課題と多大な対策コストに悩まされるなか、壮瞥町はICTに着目。通信インフラの整備とそれぞれの課題に適した設備の導入で、低コストでの解決を目指し、事業への取組をスタートした。

北海道壮瞥町(そうべつちょう)

総面積:20,501ha
耕地面積:1,480ha
 田:   310ha
 畑:1,170ha
総人口:2,354 人
総農家数:125戸

【作付上位品目】 
米、小麦、ブロッコリー

  • 左:
    壮瞥町長
    田鍋 敏也
  • 右:
    産業振興課 農業振興係
    加藤 真人

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 中山間地域であり、小規模で多彩な農業が特徴の壮瞥町では、農業の担い手が減少する中、点在する圃場の水田管理・水管理や鳥獣害対策の負荷の高さ、効率的なハウス栽培など多岐に渡り課題が顕在化していた。
  • そこで、LPWAの基地局を、高台とトマトハウス付近の2箇所に設置し、省電力・低コストな町内全域の通信環境を整備した。
  • 水田・水路等水位センサーや気象観測システム、ハウスモニタリング装置等のデータ活用や鳥獣獲得検知・囲い罠遠隔監視カメラ等の活用により、自動化・省力化が実現できることを確認した。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LoRaWAN®基地局 2基
  • カメラ・センサー
  • 水田センサー 3戸 31台
    水田の水位監視
  • 水位センサー 2箇所 2台
    用水の水位監視
  • 罠センサー 9台
    くくり罠捕獲状況監視
  • 静止画カメラ 1台
    囲い罠監視
  • ハウス環境モニタリング装置 2台
  • ハウス温湿度センサー 18台
  • 気象観測システム 4台
  • 制御盤情報取得装置 2台
    温泉汲み上げポンプ流量、稼働状況監視

~ワークショップを通じ 多様な課題を洗い出す~

令和2年度からの9年間は「第5次壮瞥町総合計画」に掲げた4つの柱の1つである「元気な産業のまち」を基に町の主要産業である農林業の振興に取り組んでおり、翌年度からは地域農業者や農協等の関係機関とワークショップを開催し、抱えている課題や情報通信機器のニーズを調査した。
令和4年度からはワークショップで得られた課題等の解決に資する可能性のある情報通信機器を本格導入する前に、実際に農業者・行政で使用感を確認するため、試行調査を実施することとした。(現在も継続して実施中)

計画を進める上で重要なことは?

ワークショップの参加者には、町の農業委員会の会長や町の会議組織に関連している人など、日ごろから生産者の声を取りまとめている「核」となる方々を選定しました。そのため、多岐にわたる課題を洗い出すことができ、その後の解決策についても賛成・反対に関わらず、各技術に対してメリット・デメリットに関する率直な意見が出ました。こうした闊達な意見交換により、スムーズに計画を進めることができました。

~2箇所の基地局のみで効率的なエリアカバーを実現~

中山間地域であり、電波特性を踏まえて基地局の設置場所の選定を慎重に行う必要があったが、総務課や建設課などと早期に連携することで、効率の良い設置場所がスムーズに調整できた。洞爺湖を見渡す展望台に設置することで、湖畔をまたがった対岸のエリアにも電波が到達。2基のみの設置で効率的なエリアカバーを実現することができた。

これまでの経験で学んだことは?

中山間地域は地形的に電波が届きにくいですが、コストを踏まえると、LPWAが最適であると感じました。しかし、夏場には電波が届いているところが、冬場には積雪などの影響で届いていないケースもあり、時期によって電波特性が異なることがわかりました。

~遠隔監視の有用性を実感、金銭的被害の軽減にも~

水田センサーは営農者が毎日行っていた水田の見回りを1週間に1回程度に減らすことができ、突然の漏水にもいち早く気付くことができた。
ハウス内温湿度センサーは、自宅でモニタリングできる手軽さや生産者間の情報共有につながる点が好評である。実際に温度低下の検知により温水循環ホースが外れていることを検知し、経済的損失を防ぐこともできた。
鳥獣害対策の罠検知システムにより、遠隔で捕獲を検知することができた。見回り回数を大きく減らせることから、今後は罠の設置数を増やし、捕獲頭数を増やしていきたい。
気象観測装置により、アメダスではカバーできないエリアの正確な気象情報が取得可能となった。営農者のみならず、新規就農希望者などにもこれらの情報を展開していきたいと考えている。

活用した予算

第5次壮瞥町総合計画(令和2年~11年度)では「1.元気な産業のまち」を施策の4つの柱の1つにかかげ、町の主要産業である農林業の振興に取り組んでいるところ。
産業振興課では農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)を活用しITを活用した農業農村インフラ管理の省力化・高度化を図りスマート農業の実装に必要な情報通信環境の整備計画を進めている。

成功要因・工夫した点

  • 1つの課だけでは解決できない多岐に渡る分野だが、他部署とも同じフロアでいつでも気軽に話ができるコンパクトな組織であり、情報通信機器のニーズは他部署も含めて確認していた。
  • 農山漁村振興交付金が多用途に活用できたため、地元のニーズに合わせた多様な試行調査を行うことができた。情報通信インフラの整備は、他の予算の呼び水にもなる。

担当者コメント

今回の試行調査の成果を踏まえ、町内農家、住民に必要な情報通信機器の導入を計画し、全町的な普及を目指したいです。(田鍋 敏也 氏)

多様な作物の栽培や遠く離れた圃場に設置した水位センサー、鳥獣被害対策など、中山間地域ならではの課題解決策として様々な用途にICT活用が展開できました。(加藤 真人 氏)