Case Study

事例紹介

岡山県倉敷市

データを対話の土台とし、みんなで考える持続可能な水管理

  • 水田
  • 用排水
  • LPWA

正確な水位をICTで共有する。
経験則から脱却した安心できる水管理へ。

倉敷市は南西部に干拓地が広がっており、網目状に水路が張り巡らされた水田地域が市街地化して現在に至っている。そのため、幹線道路沿いや街中の低平地、下流では海抜ゼロメートル地帯に農業用水路が通っており、その環境から水当て調整の難しさや道路の冠水・浸水に悩まされてきた。水管理はベテラン管理者の経験則による目視の判断で行われてきたが、担い手の減少や高齢化によって技術継承が進まず、急な調整には対応しきれない状況からクレームが相次いでいた。そこで、遠隔監視システムによる水位の「見える化」と、それを活用した定量的かつ効率的な水管理への移行を目的に事業への取組を開始。運用時には作業時間の約80%削減を実現しながら、今後は蓄積したデータの分析でより理想的な水管理の推察検討を目指している。

岡山県倉敷市

総面積:35,607 ha
耕地面積:3,550 ha
総人口:474,592 人
総農家数:5,209 戸
【作付上位品目】
米、ぶどう、桃、ごぼう、
たけのこ

  • 倉敷市文化産業局 農林水産部
    耕地水路課 課長
    岡本 健武
  • 倉敷市総務局 玉島支所産業課
    課長
    河田 頼治

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 倉敷市は一級河川の高梁川(たかはしがわ)の下流域に広がる干拓地に位置し、網目状に水路が張り巡らされた水田地域の中に市街地が展開している。海抜ゼロメートル地帯では水が溜まりやすく、道路冠水・浸水被害を発生させないような適切な用水管理には経験を要するが、農業者の高齢化や離農により利水・排水調整に長けた熟練者が減少しており、水管理と技術継承に課題を抱えていた。近年は突発的な豪雨も多く、樋門や排水機場の運転対応に遅れが生じており、水管理の高度化・省力化が喫緊の課題となっていた。
  • これらの課題を解決するため、令和4年度・5年度に情報通信環境の整備計画を策定。令和6年度より水路や排水機場に27台の水位計を設置し、市庁舎屋上など4か所にLPWA基地局を配置して市内の幅広いエリアを無線通信網でカバーする遠隔監視システムを整備した。
  • 遠隔監視システムにより地域一帯の水位を「見える化」したことで、施設管理者の作業時間の8割削減に成功。また、行政職員・施設管理者・農業者など関係者全員がリアルタイムで水位を確認し、みんなが同じデータを見て判断できる環境が整い安全・安心な水管理へと進化すべく地域全体が「データで話し合う」文化を育んでいる。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LPWA基地局 4基
  • 水位センサー(排水機場)10台
  • 水位センサー(水門・樋門)12台
  • 水位センサー(用排水路)3台
  • 水位センサー(その他)2台

地域の経験値を結集した遠隔監視システムにより、定量的かつ効率的な水管理に移行

倉敷市は水害・水利課題に対応するため、令和4年度から情報通信環境整備計画の策定に着手した。遠隔監視で水位を可視化し効率的な水管理へ移行するため、地元関係者と2年間協議を重ね、重点箇所を精査し費用対効果を踏まえ、幹線水路や排水機場など重要箇所への水位センサー設置を計画した。
水位センサーは超音波式のほか水圧式などを検討したが安価で扱いやすく職員でも設置可能という点から超音波式を採用した。水位センサーの通信には、広範囲かつ低コストの通信を実現するためLPWAを採用。設置場所の選定に向けた電波調査を実施した。試行調査では、監視カメラや排水機場の遠隔操作が可能な機器も検討したが、費用対効果を考慮した結果、水位計のみで必要なデータは取得できると判断し、施設整備事業は水位計に絞って整備する計画とした。

計画を進める上で重要なことは?

排水機場の管理者や農業土木委員など関係者が一堂に会する水管理に関する調整会議を定期開催している。継続的に意見交換の場を設けて共通の課題意識を持ち、議論を重ね合意形成を図ることが成功の鍵となる。

現場の情報収集・調整から機器設置まで現場第一主義が成功のカギ

令和6年度に施設整備事業を実施し、水管理上重要な幹線水路や排水機場に安価で運用しやすい超音波式の水位計を27台設置。全ての水位計をカバーできるようエリア設計を行い、学校や庁舎、農業用施設などの公共施設を活用してLPWA基地局を4基設置して遠隔監視システムを構築した。
排水機場の運転管理者や樋門の操作員など関係者との意見交換の結果、適切な排水調整には手動運転の排水機場や樋門の操作開始を通知する仕組み、大雨時には道路冠水や浸水の発生を速やかに把握・警告する仕組みが必要であり、これらの機能を遠隔監視システムに導入した。
外部委託に頼らず、職員自身が水位センサーの設置技術やノウハウを継承できるようにするため、試行調査の段階から職員も機器の設置に関わり、ICT技術を学びながら現場理解を深めた。

これまでの経験で学んだことは?

職員自らセンサーを設置できる仕組みとしたことで、追加設置可能となり、例えば水門の内水側だけでなく外水側にも設置することで水門の内水、外水の水位を把握し、開閉判断が容易になるなど、非常に有益なシステムとなった。

地域の関係者と共に安心安全な水管理を実現 利水と防災の観点から

施設管理を委託する農業者を含む100人超が現場に行かずスマートフォン等で水位をリアルタイムで把握できるようになった。排水・取水の判断が即時可能となり作業時間は従来比の8割削減された。
排水機場運転管理者・樋門操作員・行政が水位データを共有し、同じ指標で判断できるようになった。可視化されたデータにより特定の水位基準を決めながら、排水機場運転や樋門操作を協議・実施する体制が整い、利水と防災の両面で迅速な意思決定が可能となり、安心感に繋がっている。
職員自ら水位計の設置・登録・管理まで行う技術研修を実施し、直営体制を確立することにより、コスト削減を図っている。設置後のアプリ設定や登録、維持管理も職員が担い、追加設置や点検まで市職員主体で行える体制を構築した。

【予算措置】

計画策定事業
・農山漁村振興交付金
(情報通信環境整備対策)
施設整備事業
・農山漁村振興交付金
(情報通信環境整備対策)
・農業水路等長寿命化・防災減災事業

成功要因・工夫した点

  • 担当職員が現地に赴き、地元との連携を密に取りながら進めたことで、高齢な管理者からもスマホでの操作に拒否反応を示すことなく好評を得ている。マニュアルも用意はしたが、分からない方には一人ひとりに直接説明した。
  • 一番苦労したのは費用対効果の判断だった。限られた事業費の中で最大の効果を出すためには、どこに、どの機器を、どれだけ設置すれば最大の効果が得られるかという点を、何度も検討しながら最終的な構成にたどり着いた。

担当者コメント

当市のような事例は全国どこでも横展開が可能だと感じている。高齢者が担う地域の農業や施設管理において、持続可能な体制確立のために情報通信環境整備事業は非常に有益なツールだと思う。
(倉敷市文化産業局 農林水産部 耕地水路課 課長 岡本 健武 氏)

IoT機器とアプリの導入により水位の状況を夜間・早朝を問わず瞬時に把握できるようになった。共通の指標に基づいて迅速に判断できる環境が整ったことで、水利施設管理者や農業者の安心感は大きく高まった。
(倉敷市総務局 玉島支所産業課 課長 河田 頼治 氏)