Case Study

事例紹介

北海道釧路市

実現の可能性を重視した段階的整備により営農飲雑用水施設の遠隔監視システムを構築

  • 水管理
  • 用水
  • LPWA

手間と無駄をなくした水利施設の遠隔監視。
安定した水質の供給で酪農と人の健康を守る。

釧路市の農業の中心は酪農。そこでは牛の飲用水のほか、集乳タンクや厩舎の洗浄など様々な用途で多くの水を要する。また、それら農業用水だけでなく一般用水にも同じ取水施設や浄水施設を使用しているため、特に荒天時の土砂による水質悪化は健康被害につながる可能性もあり、日頃から迅速な対応が求められていた。しかし、通信電波不感地帯にある施設や河川の状況は、職員が直接現地に足を運び目視で確認する必要があった。不感地帯ゆえに速やかな状況の伝達も難しく、一連の作業に伴う多大な労力が喫緊の課題となっていた。そこで釧路市は、施設管理の省力化を目的に水位計・濁度計の設置と遠隔監視システムの整備を実施。現在は取得した数値データをもとに、より最適な運用を目指して試行錯誤を続けている。

北海道釧路市

総面積: 136,326 ha
うち耕地面積:10,400ha
人口:151,375 人

【家畜飼養頭数】
乳用牛14,012頭
肉用牛5,492頭

  • 釧路市産業振興部 農林課
    音別農林振興係 担当係長
    秋元 公宏
  • 釧路市産業振興部 農林課
    音別農林振興係 主査
    矢野 拓也

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 釧路市が管理する尺別農業用水道は、地域の主力産業である酪農における集乳タンクの洗浄などに活用されるため、徹底した水質管理が求められている。このため、大雨時等には昼夜を問わず、職員が音別町行政センターから約13km離れた取水口に赴いて、河川水位及び濁度の状態を確認し、取水の開閉を行う必要があり、これらにかかる作業の省力化が課題となっていた。
  • そのため、令和6年度に、LPWA(プライベートLoRa)を整備し、携帯電話の不感地帯であった取水口や浄水施設に携帯電話ネットワークを補完する独自の情報通信インフラを整備した。取水口と浄水施設には水位計と濁度計を設置し、リアルタイムにスマートフォンやパソコンから確認できる遠隔監視システムを構築した。
  • これにより、市職員の現地確認の頻度は減少し施設管理の大幅な省力化が実現した。現在は水位や濁度の状況に応じたより適切な対応を目指し、計器の数値と実際の現場状況を照合しながら操作規定・判断基準づくりを進めている。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LPWA(Private LoRa)
    親局1基

  • LPWA(Private LoRa)
    子局2基 ・中継局2基

  • 遠隔監視水位計及び遠隔監視濁度計
    各2基

試行調査の前から予算調整を開始し、実現可能な計画に落とし込む

試行調査を始める1年前から財政部局と施設整備事業化に向けて調整を開始し、職員負担の軽減という明確な目的を訴えて、計画的に市役所内で合意形成を積み重ねた。令和4年度から音別2地区(上音別・尺別)・阿寒1地区(共和)の3地区の試行調査を実施し、通信距離が比較的短く、低予算で整備可能な音別地区(尺別)を対象地に選定。通信規格は、広域通信が可能で降雨や樹木の影響を受けにくいプライベートLoRaを選定した。親局1基、中継局2基、子局2基の電波塔で対象施設をカバーし、データは子局から中継局、親局を経てクラウドで管理する設計とした。
試行調査ではカメラを設置したが、送られてくる画像情報と水位計や濁度計の値にタイムラグが発生して判断しにくいことや、夜間は照度が足りず濁度の判別ができないこと、バッテリー駆動では安定稼働に懸念があるという理由から、水位計と濁度計のみの構成にした。

計画を進める上で重要なことは?

「職員の現地確認の負担軽減」と「水位・水質の見える化」という明確な目的を設定した上で、「まず監視から」という段階的アプローチにより対象施設を限定し、遠隔制御や監視カメラも見送ることで、事業の複雑さとコストを抑制してスムーズな導入と早期に効果を得ることが可能になった。

工夫を重ねて安定的に運用可能な遠隔監視システムを構築

令和6年度から取水口と浄水施設にそれぞれ水位計・濁度計を設置し、プライベートLoRaにより遠隔からリアルタイムで現地の水質変化の様子が分かる遠隔監視システムを構築した。
機器を設置した場所には電源がないため、ソーラーパネルとバッテリーを導入したが、積雪期間を考慮し、雪が落ちやすい角度にパネルを設置したり、バッテリーの容量を増やしたりすることで、冬場でも安定した運用を可能とした。
試行調査では鉄パイプを使って電波塔を設置したため、十分なアンテナ高を確保できずに電波状況が不安定になってしまった。そこで本設置では、コンクリート柱を使って電波塔の高さを確保したことで、試行調査段階よりも少ない電波塔の数で全体をカバーすることができた。

これまでの経験で学んだことは?

試行調査は秋から冬の落葉期に実施したが、施設整備時には葉が茂っていたことで現場の通信状況が変化し、当初の設計を一部見直す必要が発生した。季節による自然環境の変化を踏まえ、年間を通じた現地調査と施設整備計画が重要である。

ICTを活用した施設管理により水質管理を省力化

水位と濁度データをクラウド上で常時監視し、閾値を超えた場合には通知が届く仕組みとなっている。職員は事務所や自宅からスマートフォンで確認でき現地出動の判断を迅速に行えるようになった。これにより、夜間・休日の現地対応が大幅に減り、労力・人件費の両面で効果が現れている。
データ蓄積により判断を数値化・標準化でき、水位データは濁度予測や漏水などの異常検知にも活用されている。
今後は水質監視にとどまらず、畜産分野での家畜情報管理、林業における山間部からのSOS発信や鳥獣被害対策など、多様な分野への応用も期待される。

【財源】

計画策定事業
・農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)
施設整備事業
・農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)
・釧路市 農村地域情報通信環境整備事業

成功要因・工夫した点

  • 地域のための水質管理をより少ない負担で着実に実現できるよう、構想を広げすぎず、予算に応じた現実的な計画としたこと。
  • コンクリート柱の採用や積雪・葉の茂りへの対応、バッテリー容量の調整など、柔軟に計画を修正して整備を進めたこと。

担当者コメント

遠隔監視システムを導入することで職員が現地に行く回数が減り、水質管理が効率化された。今後の利用状況に応じてさらに工夫しながら運用を進めていきたい。
(釧路市産業振興部 農林課 音別農林振興係 担当係長 秋元 公宏 氏)

現地に行かなくてもある程度の状況が把握できるようになったことで職員の省力化だけでなく、安全で安定的な営農用水供給及び維持・管理に繋げることが出来た。
(釧路市産業振興部 農林課 音別農林振興係 主査 矢野 拓也 氏)