Case Study
事例紹介
山梨県山梨市
農業から始まる地域づくり
~IoT活用による高単価果物栽培へのチャレンジ~
- 河川・ため池
- 施設園芸
- 鳥獣害
- その他
災害復興を経て地域を豊かにするために。
デジタル技術で果樹産業を活性化させる。
山梨県は平成26年の豪雪により多くのビニールハウスが倒壊、総額170億円を超える被害を受けた。そこで山梨市は早期復興に向け、新たに高単価なシャインマスカット栽培にチャレンジ。より安定した栽培を実現するために、NTT東日本やJAフルーツ山梨と連携したICT環境整備で、農業の省力化・高度化を図った。これは同時に、農家の高齢化問題に対する後継者育成も目指した取組として進められている。
山梨県山梨市
総面積:28,980 ha
耕地面積:1,870 ha
田面積:18 ha
畑面積:1,850 ha
総人口:33,435 人
総農家数:1,904 戸
【作付上位品目】
ぶどう、もも、かき
-
左:
山梨市 政策秘書課
小林 弘 氏 -
右:
NTTアグリテクノロジー
中西 雄大 氏
取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)
- 山梨市の基幹産業は果樹農業であり、儲かる農業への変革が地域課題の中心となっている。2014年の豪雪により地域の多くのビニールハウスが倒壊し総額170億円を超える被害を受け、高単価のシャインマスカット栽培に地域をあげてチャレンジすることとなった。
- そこで、市庁舎を含む市内6箇所にLPWAの基地局を設置し、市自ら広範囲の自営の情報通信網を整備し、シャインマスカットの安定栽培や省力化に取り組んだ。
- これにより、20%の省力化や未経験者でもデータの活用による失敗の少ない安定した栽培が可能になったほか、ハウス内の異常検知アラートにより経済損失を未然に防ぎ、盗難抑止にもつながるなどの成果をあげている。
整備した情報通信環境
設置機器
-
▲LPWA基地局 6基
-
●環境センサー 5台
農園の環境情報収集 -
●可搬式人感センサー 10台
盗難の監視・通知 -
●高齢者の見守りセンサー 3台
盗難の監視・通知 -
●水位センサー 3台
河川水位の監視 -
●傾斜センサー 2台
崖地の地崩れ監視
~官民連携の力で地域課題の解決につなげる~
2014年の豪雪の影響で地域の多くのビニールハウスが倒壊し、復興に向けて高単価のシャインマスカット栽培に地域を挙げてシフトしていった。計画段階から JAフルーツ山梨とNTT東日本と一緒にスキームを構築し、専門的な知見協力をいただき情報通信基盤整備を進めてきた。
2017年には地域課題にIoTを実装する官民連携のプロジェクトとして、 山梨市とJAフルーツ山梨、NTT 東日本、Synaptechの4者でアグリイノベーションLabを立ち上げ、目的達成に必要な情報や資源を各者が持ち寄り、プロジェクトを推進した。現在もその活動が土台になっている。
計画を進める上で重要なことは?
情報通信網を最終的にどこまで利活用するのか、スマート農業のためだけではなく、災害対策や福祉など、他の地域課題の解決にも結びつけられるよう、計画段階から検討し、設計しておくことが重要です。また、山梨市は官民連携推進、JAは農家の連携や農業知識の提供、NTT東日本はIoTやデジタル情報知見の提供と、それぞれの役割分担が明確であり、取組体制が効率的に機能していたことも大きいです。
~スモールスタートでできることから成功体験を積み重ねることが重要~
LPWAの基地局は山梨市の予算から毎年1~2基ずつ設置し、現在6基設置している。設置場所は公共施設とし、スマート農業の実施圃場や河川水位センサーに電波が届く場所から整備を進めた。スモールスタートで、段階的に成功事例を重ねるよう整備してきた。
これまでの経験で学んだことは?
基地局設置については、電波シミュレーションや現地調査を重ねましたが、春の現地調査で電波が届いていた場所が、年間を通じてみると木々の成長など、様々な要因により、電波が届かなくなっていたこともありました。しかし、試行錯誤を繰り返し、月日を重ねてきたことで、どこに設置すればどのくらいカバーできるか見通しが立つようになり、現在は安定的に稼働しています。
~センサー機器の無償貸出により拡大するスマート農業~
ハウス内の温度・湿度・土中水分量・照度などを計測する環境センサーは、ハウス農家に市から無償で貸与しており、見回りの負担軽減や、温度センサーのアラート通知による高温障害回避に繋がっている。蓄積されたデータはJAによる営農指導や県の果樹試験場による専門的な分析にも役立てており、シャインマスカット栽培の新規就農も増加している。
果樹盗難防止のため、可搬式人感センサーを設置し、畑への侵入者を検知すると通知が届く仕組みにしている。人感センサーは持ち運びができるため、多くの農家に貸し出しが出来る。盗難防止の人感センサー設置の取組がメディアに取り上げられ、抑止効果もあった。盗難被害は目に見えて減っており、ゆっくり休めるようになったと生産者からの喜びの声も届いている。
活用した予算
スマート農業の推進においては、国からの補助金に頼らず、市の地方創生予算で実施しており、柔軟な用途で使える形にしている。
毎年数百万円程度の予算の中で、段階的に基地局やセンサーを増やしてきた。取組み当初は500万円程度の予算規模。現在は構築並びに通信費・保守費含め350万円程度。
センサーは市が購入し、無償で貸し出しており、生産者に費用負担はない。
取組み体制
成功要因・工夫した点
- 官民連携で小さな課題解決から始め、スモールスタートでできることから成功体験を段階的に積み重ねた結果、周囲の理解が得られやすくスマート農業の拡大につながっている。
- 市政全体を俯瞰して見ている企画セクションの担当者が中心のため、整備した情報通信網を農業以外にも活用する検討がしやすい。
- 機器類は市が購入し、JAとの連携により農家に無償で貸し出しており、農家がコストを負担する必要が無いため、取組が地域に広がりやすく、地域全体の農業活性化につながっている。
担当者コメント
官民が連携して基幹産業である農業から、地域のデジタル化を進め、今後は防災や福祉など、地域全体を豊かにしたいです。(小林 弘 氏)
一度に大規模整備を行うのではなく、地域課題と向き合い、少しずつ成果を積み重ねて、段階を経て整備をしていくことが重要だと考えています。(中西 雄大 氏)