Case Study

事例紹介

北海道津別町

中山間地域での課題解決の肝である情報通信環境インフラの整備により、持続可能なアグリシティを目指す

  • LPWA
  • 自動機
  • 鳥獣害
  • その他

持続可能なアグリシティの実現を目指して。
中山間地域の通信環境の課題を解決する。

オホーツク地域に位置する津別町の農業は、小麦、てんさい、ばれいしょ等の寒冷畑作物と酪農・畜産が主体であり、林業と並ぶ基幹産業となっている。かねてより課題となっていた農作物への獣被害や担い手不足等を解決するため、津別町は平成28年よりスマート農業導入の取組みを開始。令和3年には鳥獣罠検知システムやトラクタの自動操舵システムをはじめとする技術の導入で農作業の効率化・省力化を図ってきた。しかしその中で、中山間地域に多い通信電波不感地帯の存在が浮き彫りとなり、スマート農業の推進への大きな障壁となった。そこで、更なる農作業の効率化・省力化、ひいては農業所得の向上のため、通信環境の改善を第一として準備会に参加。個別地区支援を受けて最適な通信環境を目指しながら、持続可能なアグリシティの実現に向けた取組を行なっている。

北海道津別町

総面積:  71,680 ha
耕地面積:4,849 ha
 田: 14 ha
 畑:   4948 ha
総人口:4,130 人
総農家数:146戸
【作付上位品目】 
小麦、てんさい、ばれいしょ、たまねぎ

  • 津別町農業協同組合 
    代表理事組合長
    佐野 成昭
  • 津別農業協同組合
    営農部営農課MRマネージャー
    有岡 敏也

取組みの経緯(地域の課題と情報通信環境整備の狙い)

  • 津別町は耕地面積約5,000ha、そのほとんどが畑である大畑作地帯で、小麦・てんさい・ばれいしょ・たまねぎなどを生産しており、トラクターの自動操舵など、スマート農業技術導入による生産性向上に以前から取り組んできた。
  • しかし、携帯電話サービスの不感地帯の存在が大きな課題となっており、畑地面積の約20%に及ぶ不感地帯で自動操舵が行えず、緊急時の連絡なども取れないことから、離農のきっかけとなりかねない状況となっていた。
  • そこでモデルエリアを設定し、電波伝搬距離が長く、省電力で、機器のイニシャルコスト・ランニングコストが安価なLoRaWAN®を活用して、自動操舵を含む5つのサービスの機能検証を実施している。モデルエリアでの実証の結果を元に今後9地区にトラクター自動操舵システム、生産者安否確認、鳥獣罠検知システム、気象ロボット、水位監視システムなどのスマート農業技術を展開し、持続可能なアグリシティの実現を目指す。

整備した情報通信環境

設置機器

  • LoRaWAN® 基地局
  • トラクター自動操舵システム
  • 生産者安否確認
  • 鳥獣害罠検知システム
  • 気象ロボット
  • 水位監視システム

個別地区支援までの流れ

平成28年にスマート農業の導入に取り組むための「スマート農業研究会」を発足し、生産者同士で 情報交換ができる勉強会などを開始。自動操舵、可変施肥、ドローンなどの技術を研究した。
令和元年~2年と令和3年~4年には「スマート農業実証プロジェクト」(農研機構)に採択され携帯電話サービス不感地帯にてプライベートLTEの敷設、可変施肥、土壌改善、営農システムの機能拡充による工程管理を行ったことは大きな成果となったが、一方コスト面での課題があり、より低コストで実現するための通信手段が必要とされる状況であった。

携帯電話サービス不感地帯でのスマート農業の実現に向けて、最適な通信環境を整備するための情報を収集している中、農山漁村振興交付金(情報通信環境整備対策)に着目。令和3年度に農業農村情報通信環境整備準備会に参加し、個別地区支援を受け、ワークショップや現地調査を行った。

計画策定支援事業

JAつべつ(スマート農業研究会)で個別地区支援を受ける中、LPWAの一方式で免許不要かつ低コストで利用できる通信技術であるLoRaWAN®を用いて、自動操舵を実現するためのRTK信号を中継するシステムの実現可能性を検討した。さらに気象観測や獣害対策、農業者の安全確保にも活用できることから、通信インフラとして整備する方向性が固まっていった。
令和5年~6年(現在)、計画策定支援事業に取り組んでおり、モデルエリアである8haのエリアにおいて、試行調査を進めている。
LoRaWAN®基地局1基で8haの農地をフルカバーし、トラクター自動操舵システム、生産者安否確認、鳥獣害罠検知システム、水位監視システムや気象ロボットを試験導入。成果を分析して評価を進めるとともに、今後の施設整備事業への発展に向けて管内の生産者からヒアリングし、手挙げしている9地区への導入・展開を進めて行く予定。写真は2023年RTK自動操舵実証実験の様子。

計画を進める上で重要なことは?

施設整備事業に向けては生産者のモチベーションを維持できることが大事であり、研究会を中心に、新しい技術を導入した際、生産者に結果報告をしていることが良い循環を生んでいるのではないか。今後は生産者の理解を得るため費用の負担額について、農業者や自治体と検討しながら、通信費などの見極めをしていく必要もありそうだ。

【今後の整備計画】

現在計画策定事業において、8haのモデル地区で、 LoRaWAN®をインフラとして整備し、 5つのサービスを実証している。
①トラクター自動操舵システム
②生産者安否確認
③鳥獣害罠検知シテム
④気象ロボット
⑤水位監視システム

今後は施設整備事業を行い希望する9地区への横展開を計画している。

【地区計画の全体像】

現在、JAつべつが抱える5つの課題をテーマとして設定。津別町内の圃場エリア全域に通信ネットワークを構築し、課題を解決することで、人口減少下でも持続可能なアグリシティの実現を目指す。

成功要因・工夫した点

  • 取組の中心が生産者であり、生産者が自主的にスマート農業研究会を発足し、ICT利活用についても積極的に学び取り入れてきた点が大きい。
  • 生産者の皆さんのやる気をしっかりとJAが受け止め、最新の情報の入手や事業費の獲得、自治体・政府との交渉とエネルギッシュに活動している。

担当者コメント

全国の4割を占める中山間地域の効率的な生産を考えずして、食料自給率を上げることはできない。今後生産者が減少していく流れの中で、残っている生産者が農業を続けられる環境を作ることが重要であり、その為には少し早いと思われても常に先頭であり続けたい。(佐野 成昭 氏)
情報通信がないと、良い機械を持っていても、十分活用できません。スマート農業の普及には情報通信の環境整備が肝だと思います。(有岡 敏也 氏)